初めてツイッターのアカウントを登録したのは、高2の春だったからそれから10年経った。始めたころは学校が終わった後も友人とおしゃべりができる場所だったのに、いつしか恨みつらみの墓場になってしまった気がする。
赤ちゃんが小学4年生になるまでツイッターをしていると、思考と指先の運動のラグがなくなってしまった。考えているからつぶやくのか、つぶやくために考えているのか分からない。
風呂で頭を洗っていたり、犬と散歩をしていたりするときでも、「これ後でツイートしよう」と35字ぐらいのテキストを思い浮かべているので末期である。
とはいえ、10代後半で初めてまともにインターネットに触れた人間にとって、家と学校以外の世界を覗ける「窓」を与えてくれたのはこの青い鳥だ。
調子がいいときでも、具合が悪いときでも、鬱陶しいぐらいいつもそばにいた青い鳥。こうして青い鳥から離れられなくなってしまった人間から、“さえづり”を奪ったらどうなるのか。ちょっと試してみたい。
準備をしよう
さえづりを奪うといったが、ツイッターそのものを禁止するのではなく、ただ1カ月間ツイートを我慢するだけである。でも、タイムラインを眺めて「いいね」を押すのはよしとする。さみしいからね。
つぶやきを禁じる代わりに、良いことも悪いことも何でも放り込んでいい「パンドラの箱」を用意して、自分がどういう言葉を書くのか観察してみよう。
デジタル版「パンドラの箱」の作り方は簡単で、ツイッターに書きそうなことをGoogleフォームで作った「深淵」に送るだけ。
さらに、パンドラの箱に欠けてはならない要素である「よろこび」などを選択式で作り、回答をカテゴリーで分けられるようにしてみた。よろこび 0% の「蟲毒」ができてしまうかもしれない。
ひとりごとを深淵に投げ入れてみて「なにをしているんだ」と正気に戻りかけたが、巨大な穴に紙屑をちぎって捨てる感覚だと思うと無限にできてしまう。
ツイッターならタイムラインに残って見えてしまうあれやこれが、無尽蔵に広がる深淵に吸い込まれて消えるのでなんだか気持ちがいい。ツイッターは自分のうんこが流れていく川だとしたら、深淵は立った瞬間にうんこが流れていく水洗トイレだ。
ホーム画面にフォームを設定したので、一瞬でひとりごとが書けるようになった。
開けてみよう
深淵を作ってから1カ月後。
予定表に「深淵確認」と書いておいた6月22日がやってきた。ここからはフォームをスプレッドシートに移して集計するぞ。
始めにタイムスタンプから、日付、曜日、時間を抽出し、複数選択可の気分を個別に数える関数を組んでみた。
ボツのピボットテーブルに一生使うことがなさそうな「SUM」が並ぶ。
午前7時を起点として1時間ごとの回答数をグラフにした。日中は2時間おきぐらいに山と谷を繰り返している。何かに飽きているのが分かった。
そして、20時に大きな谷ができてから翌日0時にかけて回答数がグッと増える。インターネットのゴールデンタイムだ。
無を感じよう
回答数383個のうち一番多かったのは
「無」
複数回答ができるとはいえ、合計は103個と煩悩に達する勢いで「無」を感じている。5月23日から6月22日までの1か月間の総回答数は383個なので、4回に1回は「無」になっているようだ。1年間だったら除夜の鐘をクリスマスぐらいから鳴らしてないと新年に間に合わない。
無とよろこびを戦わせてみた。回答数のグラフの山と無のピークタイムはほぼ一致する。太陽が出ている時間帯はよろこびが死滅しているが、パンドラの箱内のパワーバランスとしてはちょうどいいのかもしれない。
無の中身
パンドラの箱のメインコンテンツ、無を見てみる。
- 右の鼻の穴から鼻毛が出てたからピンセットでまとめてブチブチ抜いたんだけど、今日一日中鼻の中痛いのこれだ
- 右手と左のすねがかゆい
- 快便と下痢軟便はちげーんだよ
- 手汗がやばいのよ
- 風呂、かなりの体力を削っていく
パンドラの箱の中身としてはだいぶしょぼくて恐縮だが、結構な頻度で体調不良をつぶやいている。いくら寝ても体力が6割ぐらいしか回復しないのが大人だ。暑さにかなり弱いので風呂でも毒の沼状態で体力が減る。
- ねろ(5月24日 火 0:47:31)
- 体調悪(5月24日 火 7:56:01)
- 元気なし(5月24日 火 8:38:57)
時間別にみると平日はコンボ技も発生。早く寝ないとこうなるぞ。
- ヤクルトの話してんのたぶんオタクだけだよ
- いくらでもツイッターやってる大人やだな
- 「メモ あとで買う」と引用ツイートする人は、基本機能のブックマークやツイートの共有からiPhoneのメモに保存できるのをご存じないのか
- ひねくれすぎて「バズツイートにいいねしたくない自分が嫌だ」まで到達
ツイッターと10年の付き合いともなると愛憎も入り乱れる。ただ、サーバー契約して個人サイトを作っている間に7月半ばに突入したので、もうヤクルトの話をしている人間は観測できなくなった。諸行無常。
無回答は無ではない
無に当てはまらない無回答の数は67。
- もうねちゃおう委員会
- カスタムくん
- はらへり
- 歯磨きしてなくて寝ちゃいけないときに寝てるのって気持ちいよねー
- でんしんばしらのうえーで〜 スズメがいちに! サーンバ〜
- 自転車飛ばしすぎて地面に降りた瞬間に崩れ落ちそうだった
- いかりのマンボウ
- Internet Explorer? 死んだはずでは……?
- うんこが必要以上に出た
気分うんぬんというより、そのとき頭に浮かんだものを脳直で書いているので意味はない。思考がツイッターすぎる。
- いす たわし おきなわのおみそ
この後、イマジナリー土井先生の存在しないお味噌汁を診断メーカーで作って1人で遊んだ。全部ウソでも最後に「おきなわのおみそ」をつけると土井先生っぽい。
診断メーカーを作る前に本物の土井先生のツイートから具材を抽出していたのだが、一見全角スペースに見える部分が半角スペース2つや改行で調整している部分もあり、リスト化が一筋縄ではいかなかった。
そういえば、昔のiPhoneのスペース入力は辞書登録で全角スペースを設定していない限り、すべて半角になることを思い出した。土井先生はどこかでiPhoneを買い替えているかもしれない(2021年の8月あたり?)
ちなみに、診断メーカーで作れる「イマジナリーおみそしる」の組み合わせは16億934万9250通りある。作りすぎちゃった。
鶏卵汁
鳥塩焼きおきなわおみそ こんぶ いりこ おみず たまご
とり しお とまと pic.twitter.com/oK868MUl7R— 土井善晴 (@doiyoshiharu) July 4, 2022
呪ってみよう
「己の力ではどうにもできず呆然としている状態」のときによく「無」を感じているが、これを増幅させると「呪詛」になる。「イ゛ーーーーーーーッ」となっているところを想像してほしい。
例えばこちら。
- 手めっちゃかゆい CANMAKE TOKYO
- 夏 手汗 止め方
- 右人差し指がもうね、許せないぐらい痒いのよ見た目もやばいし
ツイッターじゃなくてもツイッターみたいなことしか言えなくなっている。
学生のころから夏になると手が湿疹だらけになってかなり困っていたのだが、今年は右人差し指と中指がパンパンに腫れてクリーチャーみたいになった。見た目のグロさに加えて異常に痒い。
呪詛を吐きながら皮膚科に再び行くと、「手のひらの多汗症のせいですね」といわれた。手汗がひどすぎて裁縫針を全部サビさせたり、テスト用紙に湿気を吸わせていたら、隣の席の女子に「キモ」と笑われたりしたのも全部多汗症のせい。
あとは
- うるせーしらねーーー!!!!
インターネットに具体的かつ個人的な呪詛は書いてはいけないので詳細は伏せるが、シンプルに何かにキレているのもよくある。思ったことをSNSに何でも書く前に、一度深淵に話しかけてもいいかもしれない。
狂人になろう
「ちいかわの気分ってなに?」と思うかもしれないが、ちいかわ、ポケモン、ゲーム、漫画の大体は感想である。ツイッターに感想をひたすら書くタイプのオタクなので、1か月間ツイートを禁じてもなお、「深淵」へ誰にも届かない感想を書いていた。
ただし、ちいかわのことを考えているときは、完全にちいかわの気分なので間違いではない。
※「ちいかわ」はイラストレーターのナガノさんがツイッターで連載している漫画『なんか小さくてかわいいやつ』の略称
ちなみに、ちいかわは2020年10月ごろの「草むしり検定編」から追い続けているが、
- ちいかわの世界はやっぱ交尾後にオスを捕食するメスカマキリ
- 別にちいかわのことを「なんか小さくてかわいいやつ」と一度も思ったことがない
という立ち位置で眺めている。
- サーナイトはかわいいなあ
記事を書くにあたり大量の感想を見返しているが、解釈100%一致のせいか何度読んでも「わかる」と深くうなずけるので意外とよい。
感想は気軽に書いて、狂った己と向き合おう。
よろこびを解放しよう
パンドラさんがいろいろぶちまけてしまった「パンドラの箱」(※諸説あり)でも、最後に残ったものは「喜び」だという。ここにも、わずかな「よろこび」(5.8%)があった。
- かわいがられている犬はとてもよい
うれしそうな犬は健康に良い。すべての犬に光あれ。
- 犬の写真に人間のセリフをつけるやつのアンチ
人間に厳しすぎる。
- リングフィットアドベンチャー完
- リングフィットアドベンチャー完
- リングフィットアドベンチャー完
Nintendo Switchの筋トレゲーム「リングフィットアドベンチャー」をやるたびによろこびを感じているようだ。
始めのころはやるたびに膝に激痛が走りスクワットどころではなかったが、なんだかんだで1年半以上続けている。腰を下げてスクワットパワーをたm全しんwヴィ~~~ク~~~ト~~~リ~~~~!!!
- きらめくわよ〜〜〜
- 平日休みの力を振りかざしているので体が光に包まれてすばやく動けるようになった
休みの日は限界まで寝ているので比較的元気が良く、きらめいたり、すばやく動いたりしているらしいが全部気のせい。
- 強さ 弱さ ずるさ やさしさ 全て抱いて 今解き放つ
急に「To All Tha Dreamers」(SOUL’d OUT)によろこびを感じているときもある。よく見たらすごい前向きなパンドラの箱っぽい。
- Starlight Destinyは、大団円の最終回間があるのでエンドロール(全部俺)と一緒に葬式で流してほしい
回答数383個のうち、唯一の「願望」は葬式の話だった(誤字はそのまま)。
でもさ、「Starlight Destiny」を一度聴いてみてほしいんだよ。いろいろあったけど最終回は超大団円のアニメで、特殊エンディングだからキラキラ音のイントロがフェードイン、そのままでAメロで脇キャラのその後が続いて、Bメロで主人公が出てきて、サビは全員で踊るまで想像できた。劇場版なら最後にスタッフロールも流れる。映画館から出た瞬間に「いい映画だった」とつぶやくね。
正直「叫べ刹那のMelody 魅せられる程このMystery」の意味は分からないけど、YouTubeのコメント欄も“光”にあふれるぐらいすごくいい曲であるのは間違いない。エンドロールと一緒に最終回で流してほしい。でもまだ死んでないし……。
カタカタカタカタカタ……
スススス
(2倍速)
~~~~~ 1カ月後 ~~~~~
イマジナリー土井先生がささやいた。
エンドロールに流すものがなければ、ひとりごとを流せばええんですわ。
なぜか動画になった「パンドラの箱」は、不思議なおかしみと楽しさ、満足感をもたらし、孤独を包んだのであった。
※本当は著作権の許諾を取って「Starlight Destiny」を流したかったのだが、ソニー・ミュージックの音楽使用について調べたら「個人運営のホームページ・ブログへの使用」は不可だったので断念した